書 どんな書がよいかよく聞かれる。今日芸術は自由を謳歌し正に百花繚乱の時代の真っ只中。それぞれに信じているものがよいとしか答えようがない。

 しかし書はあくまで書であり言葉を伝えるものである以上そこには自ずから制約があることは当然です。字そのものに絵画的なものを付加しようとすることは象形文字である最古文に遡る以外難しい。

 昔のもので書と画が同じ台紙に書かれたものは掛け軸など多く見かけるところでこれには無理がない。書画一致といって元々は書と画は同体のものであったようです。小さい頃より座敷に何気なく置いてあった屏風を毎日見て育ったのでこの書と画は同じものであるという意識は難なく持てたようです。 そこに目にする墨蹟と画に描かれた花や枝の点と線は全く同じものであり、ここから導かれる答えは、一つ打たれた点一つ引かれた線が命であり「一」と書くのが一番難しいと自然解ってきます。達人の切った花の切り口を見て一瞬で力量を見抜いた宮本武蔵の話と同じく書は一つの点とそこから引かれた横線一本が全てであると言っても過言ではないと思われます。

 また筆を持つと大概の方は肩に力が入って身構え緊張してしまうことは多く見聞きするところです。まず一刻もはやく筆を降ろすことで、点が出来てしまえばいつまでもそうしてはいられず、横に引くか縦に引くかしかない訳です。 一本線を引いてしまえばそこからバランスをとっての次の線が生まれてくる。そうして又次となって行きます。そんな風に思えば自然肩の力も抜けそうですね。この書は豆粒ほどの小さな字ですが拡大しても迫力と気品を損ないません。大事な生き方までをも教えてくれた書画です。

2006 5/10
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