小さな町の大きな平山郁夫展

幻想的青の世界 見学においでよと、越前市文化振興事業団の藤森さんから声をかけられ、先ほど芸術館へ行く。芸術館の職員吉田さんが案内してあげると快い返事。エントランス(玄関)へ入るとまず平山先生のお写真があった。随分前だが一度お目にかかったことがあるので懐かしく拝見する。エントランスには11点の扇画が並んでいる。今回は約100点余の作品の展示ということであったが広い芸術館、ゆったりとしたスペースでの鑑賞ができる。

 次の部屋は常設展示場で大きなウインドウの中に岩絵の具で描かれた本画8点が並ぶ。ポスターでも大きく宣伝された「月華厳島(げっかいつくしま)」が下図と共に展示されているのがひと際目を引く。この作品はユネスコの世界遺産に登録された宮島を描いたものと説明があった。岩絵の具「群青(ぐんじょう)」を基調としていて大変幻想的な雰囲気をかもし出している。

 同じく目を引いたのが「斑鳩里曼荼羅(いかるがのさとまんだら)」法隆寺を中心とした斑鳩の里を象徴的に描いたものとの説明書がある。作品からなんとなく重々しい雰囲気を感じたので会場に展示されている先生の年表から逆算してみると(先生は現在76歳)40代前半の作品と分かる。この年代に似つかない雰囲気はどこからくるのかとふと思ったが、それは後で答えを見つけたかも知れないと思う。

 青さから受けるのか、ちょっと暗い感じの絵が多いかなどと話ながら次の部屋へ移ると椅子に腰かけた場内監視の女性だろうか。ちょうどその方の目の前の作品が際立って見えた。「因島大橋(いんのしま)」との画題でしまなみ海道の瀬戸大橋を描いたものである。空に暖色系の色が使われとても感じのよい作品であった。係りの方も一日そこに座っていても楽しくこころ安らぐ風なことを言われてやはりと思った。こういった色はアンバ系、と横から吉田さんが。

 このあたりの風景画は余白をそのままに残すものが多かった。白い地肌は越前和紙、それも麻紙特有の荒い肌が見える。なるほどここにこういった色を重ねるとこういった感じになるのかと一目で分かる。またどういったペンまたは筆をお使いなのか分かりませんが、全ての線の起筆が小さく滲み独特の画味が出ています。これなどよく滲みの出る和紙特有の性質をうまく使っていると思いました。

 もう一つ気になったことはここに展示されている日本の風景画の中に一人も人の姿のないことです。吉田さんは写真が趣味の方ですから風景写真に人はいないのではないかなどアドバイスがありましたが、そうなんでしょうか。子供の頃絵の先生が「線は真っ直ぐ描くな、人物は入れたほうがいい」などと教えてくれたような、淡い記憶は間違っていたのか。これは定規で描かないかぎりどうせ真っ直ぐな線など出来っこありませんからいいのですが、人物となるとどうなんでしょう。

 次の部屋に人物だけ描いた写真の展示が、それなら意識して描かないのだろうと思いました。人物が描かれていればどんな小さな姿でもどうしてもそこに目がいってしまう。絵を通して自分の内面を描こうとされたのではなどと生意気な想像をしてみました。または、どこか誰も人のいない焼きつくような風景が常にイメージとしてお有りになるのかも知れません。

 先生は15才で被爆、29才44回院展にて「仏教伝来」出品以来数々の仏教シリーズを描かれたとあります。まさに言葉では言い表せない死の恐怖と闘ってこられた方であると今日知りました。小さな町の三回に亘る大きな平山郁夫展、あとわずかの開催期間となりました。ぜひご覧になって芸術の秋をお楽しみください。

(場内は撮影禁止になっています。写真は芸術館の許可を得て掲載)
2006 10/23 AM10

戻る